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         世界の平和を願う
   
  朝鮮通信使の記録・「世界記憶遺産」登録

 江戸時代(1603~1868)は、戦争がなかった平和な時代であった。

 関ヶ原の戦いで勝利し、天下統一を果たした徳川家康は、豊臣秀吉の朝鮮侵略戦争(文禄・慶長の役=朝鮮では任辰・丁酉倭乱)の戦後処理を誠実に行い、敵対国の朝鮮と平和友好の誠信「信(よしみ)を通わす」外交の道を開いた。 

  海峡
       日本 一衣帯水 朝鮮半島

 1607年から1811年まで12回にわたって、朝鮮通信使が日本を往来した200年余の間、日朝両国は良好な関係で平和が保たれていた。隣接の国家間でこれほど長い期間、争いがなかったのは世界史的にも珍しく、まさに朝鮮通信使は「平和の使節」であったと言える。

 朝鮮通信使の日本訪問は、両国の友好関係と文化交流にとどまらず、17世紀~19世紀前半の東アジアの平和に寄与したのである。

 日朝間の善隣友好の外交精神を対馬藩の真文役〈外交官〉・雨森芳洲は「互いに欺かず、争わず、真心をもって交わる」「誠信の交わり」と説いた。

 そうした日朝間の平和外交、文化交流の証として、国書や外交記録、旅程の記録、書画、絵巻、屏風など交流の記録が、今も韓国と日本の各地に文化財として受けつがれ多数保存されている。

 2012年、「朝鮮通信使ゆかりのまち全国交流会釜山大会」を契機に日本のNPO法人「朝鮮通信使縁地連絡協議会(禄地連)」と韓国の財団法人「釜山文化財団」は、「朝鮮通信使に関する記録」をユネスコ〈国連教育科学文化機関〉の世界記憶遺産に登録申請するため、共同して取り組むことで意思統一した。

  ルート通信
     朝鮮通信使の日本往来ルート

 日本側の禄地連では、申請を具体的に進めるための部会を設置した。
 部会メンバーには、通信使ゆかりの13市(対馬、壱岐、下関、上関、呉、福山、瀬戸内、京都、近江八幡、長浜、名古屋、静岡、日光)、4県(長崎、福岡、山口、滋賀)、3民間団体(朝鮮通信使対馬顕彰事業会、蘭島文化振興財団・呉市、芳洲会・長浜市)が参加した。

 諮問機関として6人からなる日本学術委員会(委員長仲尾宏・京都造形大学教授)が設置された。
 韓国側でも釜山文化財団により推進委員会が組織されるとともに、11名からなる学術委員会(委員長姜南周・前釜慶大学総長)が設置された。

 両国の学術委員会は、それぞれ朝鮮通信使資料の調査・審査・登録資料選定を行ったうえで、合同学術会議を開催して、選定資料の相互審査と申請書案のすり合わせを行った。両国の立場の違いなどから討論が白熱したこともあったが、11回の合同会議を通じて最終的に双方の登録資料について認識を共有して申請書が作成された。

 2016年3月、日韓の民間団体が中心となって両国が共同で「朝鮮通信使に関する記録」の申請書をパリにあるユネスコ本部に提出した。

  ユネスコ 
      ユネスコ本部  フランスパリ

 ユネスコの「世界記憶遺産」は、人類の記憶に留めるべき重要な書類や地図、音楽等の歴史的記録物をデータ化して保存し、広く一般に公開することを目的としている。
 ユネスコの登録基準は厳しい、第一に「真正性」、第二に「世界的重要性」、第3に「希少性」・「唯一性」である。さらに「保存管理」や「公開」が求めらる。
 これまで登録されたものとして『アンネの日記』、ベートーベン第9交響曲の自筆楽譜』、『カール・マルクスの資本論初版原稿』などがある。
     
 2017年10月、「朝鮮通信使に関する資料」111件、333点がユネスコの「世界記憶遺産」に登録された。登録名称は「朝鮮通信使に関する記録-17世紀~19世紀の日韓間の平和構築と文化交流の歴史」である。
 朝鮮通信使の記録が世界記憶遺産に登録された意義は計り知れなく大きい。何よりも、日韓両国の人々が世界に誇りうる歴史を共有したことである。

 20世紀は、第一次、第2次世界大戦をはじめ、さまざまな戦争によって多くの尊い命が奪われ、人権や環境が失われた戦争の世紀であったとされている。

 21世紀こそは、紛争や戦争を根絶させ、失われた人権や環境を回復する平和な世紀であることを誰もが望んでいるが、現実は20世紀の戦争の後遺症を引きずり、いまだに世界各地で紛争やテロが絶えることなく、最近では超大国の経済戦争から覇権争いへとエスカレートしている。
 近年、日本と朝鮮半島との関係は悪化の一途をたどり、東アジアの不安定な状況が日ごと増しているように思われる。

 このような時期だからこそ、政治に左右されない民間人・民衆同士の交流が大切であり、成熟した市民意識と活発な交流が望まれる。民間人・民衆の国際交流は平和を保つ基礎である。

 平和は、市民レベルの交流・民際が基礎となるが、より重要なのは平和を希求する政治家たち、とくに国の権力者・指導者のリーダーシップである。国の大小を問わず、いかなる国の政治家・指導者も、平和への道筋を誤らないために歴史の教訓から学ぶべき時ではなかろうか!

 世界遺産に登録された「朝鮮通信使に関する資料」には、悲惨な戦争を乗り越えて平和を構築し、それを維持する方法と知恵が擬縮されている。日朝両国が相互理解と信頼関係を構築し、平等、互恵、友好、平和を維持した200余年の歴史が刻み込まれている。

 「朝鮮通信使に関する記録」が世界遺産に登録された後、朝鮮通信使にたいする関心が高まり、日韓両国の市民レベルの交流が一段と深まり広がりをみせている。

  対馬祭り
     朝鮮通信使行列 対馬厳原港まつり

  ワッソ3
     朝鮮舞踊 大阪四天王寺ワッソまつり

  ウオーク1
   朝鮮通信使友情ウオーク ソウルー東京 日比谷公園

 朝鮮通信使の記録を「世界遺産」登録に貢献した識者の声を紹介する。
 
 禄地連会長・松原一征氏は、
 「ユネスコの憲章の一文に”戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない”とあります。今こそ、世界の人々が平和友好を希求しつづけた朝鮮通信使に学ばなければならないと思います」

 釜山文化財団代表理事 ユ・ジョンムク氏は、
 「もはや朝鮮通信使は日韓両国だけの資産ではなく、全世界が保存しなければならない世界の資産となりました。貴重な資産を私たちの子孫に継承するため、今後、朝鮮通信使の”善隣友好“、”誠信交隣”の精神を広く知らせるよう、より努力していく必要があります」

 日本学術委員会委員長・仲尾宏氏は、
 「朝鮮通信使の記録が、今の日本と韓国の相互理解、これから両国が手を携えて未来へ向かうための大変大事なものであるということ、平和のための遺産であるということを、よく認識してもらう必要があります」

 韓国学術委員会委員長・姜南周〈カン・マムジュ〉氏は、
 「この記録を教育資料として活用したいですね。例えば、しっかりした図録をつくって、、これを教育資料とし、「朝鮮通信使に関する記録」は世界史的に重要なものだ、日韓の平和な関係はこのようにして構築されたなどを教育現場で教えていく、こうした活動が必要ではないかと思っています」(『ユネスコ世界記憶遺産と朝鮮通信使』仲尾宏・町田一仁著)

  大系通信
    大系朝鮮通信使〈全8巻〉 資料集

 ユネスコの世界遺産に登録された「朝鮮通信使に関する記録」は、日本と朝鮮半島の平和のみならず、東アジアから世界の平和実現への糧となることを願って止まない。

  おわり

 この記事をもって「朝鮮通信使」の最終回とします。100回の記事を掲載したことに、筆者自身が驚いています。毎回、勉強不足と未熟を反省しながらの掲載でありました。友人、先輩、後輩、親戚、東大和市のネット仲間の拍手と激励に鼓舞されたことが100回に至ったと感謝しています。とくに、朝鮮通信使100回全ての記事について、感想文と激励のコメントを下さったY・Mさんに厚くお礼申し上げます。

 ブログ『日朝文化交流史』はこれからも続けてまいります。ひきつづき愛読をお願いします。

        2020年7月27日

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